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7月15日。 ウブド王家の火葬の当日。 朝4時に起き、ひとり、まだ暗いモンキーフォレスト通りを歩いて王宮へ。 バリ人女性の正装、クバヤを身に付けてはいるものの、 肩には愛すべき我がニコンD80と、三脚。 周囲はまだ、夜明け前の空気。 昼間よりもかなり強気なノラ犬たちが、我がもの顔でうろついている。 バイクに乗ったバリニーズがときおり、通り過ぎるだけ。 とても長い一日を目前に、今まで見たことのない静けさに包まれたウブドです。 王宮につくと、数は少ないものの、関係者が掃除をしたりと準備をしている様子。 部外者はどうやら、わたしだけ。 出棺は昼頃の予定なので、慌ただしさはありません。 バデやランブーもすでに完成し、おだやかに出番を待っています。 通常、レゴンダンスなどの舞踊が行われる場所までは王宮内は誰でも入れます。 その先は一般立入り禁止のはり紙が。 でも、本日の葬儀はその奥で行われるよう。 カメラ片手に中をそっとのぞいていると、 奥のイスに座っていた翁と目があう。 軽く、会釈をする。 すると、彼はすっと手招きをして「入れ」とうながす。 サロンのすそを跳ね上げて、石段をまたいで王宮の奥座敷へ。 そこに、まばゆいばかりの黄金色で鎮座していたのが、ナーガ・バンダ。 龍神です。 このナーガ・バンダは通常の葬儀には使われません。 サトリアという最高位のカーストのひとつに属する人物で、かつ、 生前、コミュニティに対して尽力した功績がある場合にかぎり、使用されることが許される非常に貴重なもの。 まさしく、葬送されるウブド王家の長老、スヤサ氏にふさわしい。 今回の葬儀の中でも最も注目されるものです。 このナーガ・バンダに守られるよう、その奥に遺体が安置されています。 まず、両手をあわせて合掌。 それから写真を撮らせていただく。 ゆっくりと一枚、一枚を撮っていく。 デジタルというよりはフィルムで撮っていく感覚。 その間合いに、ひとりの人間の人生を思い、自分の生きていることを考えてみる。 亡き母のこと、父のこと。 姉、叔母、大切な人たち。 その時、ふと気がつく。 今日、東京はお盆。 きっと父は母たちを迎えるために、小さな迎え火を玄関前で焚くことだろう。 迷わずに、家族のもとへと帰ってこられるよう。 迎える人、見送る人。 その両方の気持ちを、一枚の写真にこめて。 ゆっくりとシャッターを切ってみる。
by naoko_terada
| 2008-08-07 01:53
| トラベル
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Comments(6)
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miki3998 at 2008-08-07 03:13
ご無沙汰しております。北鎌倉のmikiです。
以前7回目の結婚記念日に バリのアマンダリに宿泊いたしました。いまだにホテルグループからダイレクトメールが届きます。 夫とホテルライフを楽しむために ゆったりとしたアマンダリを選んだのですが、そのホスピタリティに感動し、いつの日かまたアニバーサリーはここでと決めております。 そんなわけでウブド村には特別な思いがございますので、 こちらにお邪魔してまたその思いが強くなりました。 またお邪魔いたします。
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baby.chappy at 2008-08-08 02:21
先日はコメントありがとうございました。私の見た公開火葬は小規模だったのですが、思い出しながら懐かしく読ませて頂きました。ウブドの棚田とモンキーフォレストの朝の静寂が目に浮かびました。寺田さんはロビナには行かれましたか?ウブドの次に好きな場所です。国定公園内から海に出るドルフィンツアーに参加しました。お話の続き、楽しみにしております。
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naoko_terada at 2008-08-08 18:59
miki3998サマ
ご無沙汰しております。 暑いですねー。 鎌倉はいかがでしょうか。 結婚記念日にアマンダリ投宿! すてきですね。 ぜひ、次回のアニバーサリーで再訪されてください。 きっと、「おかえりなさいませ!」。 と言って出迎えてくれることでしょう。 なにしろ、あそこは勤続10年というスタッフが大勢いますから。 ウブドもだいぶ変わりました。 最近はゆ~るりとしたかつてのウブドが、ちょっとだけ懐かしくなります。 夏バテにはどうぞ、ご留意ください。 またのお越しをお待ちします。
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naoko_terada at 2008-08-08 19:02
baby.chappyサマ
ロビナ! わたしも好きですー。 レイドバックしたの~んびりした空間は、本当に気持ちをゆるやかにしてくれますよね。 わたしは、ダマイがとっても好きなのですが、baby.chappyサンはどこですか? ウブド火葬の記事、がんばってアップしますね。
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baby.chappy at 2008-08-12 23:51
DAMAI、高台だからロビナのビーチが見渡せて良いです(*・ω・*)ノ『Йё』 私はもうちょっとチープなプリ・バグースに泊まります。バンジャール温泉は一度だけTRYしました。 ちょっとドキドキ、でも神秘的で良い経験でした。バリに行く時は必ずセットでロンボクにも飛び、ギリ(アイルとメノが好きです)に渡ります。次回はダマイにも泊まってみたいです^^
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naoko_terada at 2008-08-17 06:08
baby.chappyサマ
あ、プリ・バグースも好きですよー。 バンジャール温泉は雰囲気はいいですよね。 ただ、あまりキレイじゃないので、日本人にはなじめないかな~と思いました。一度、体験すればいいかと思います。 ロンボクはこれから数年でだいぶ開発が入り、激変すると思いますよ。 今のうちにどんどん通っておいたほうがいいかも、です。
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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