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四月になりました。 旅立ちの季節ですね。 この春、社会に出る人、故郷を離れる人も多いはず。 そんなすべての方に。 これは、昭和を見続けてきた民俗学者、宮本常一が故郷、山口県・周防大島を離れ大阪へ旅立つ際に父・善十郎から与えられた十カ条。 常一、15歳の春でした。 1. 汽車へ乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、屋根瓦か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているか気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。 2. 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようことはほとんどない。 3. 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。 4. 時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。 5. 金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。 6. 私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえには何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。 7. ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。 8. これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。 9. 自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。 10. 人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかりと歩いていくことだ。
by naoko_terada
| 2008-04-01 01:19
| その他
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Comments(20)
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mikansky at 2008-04-01 12:23
学生生活もとうの昔に終わり、会社勤めもしていない今、
正直、"旅立ち"や"新生活"といった言葉を4月という季節に重ねることが できなくなってきています。 感覚の鮮度が落ちてきているようで、少々寂しくも感じます。 とはいえ、4月は私の生まれ月。 30の大台に乗るのが怖くて、逃げ出すようにカナダへ移り住んだのも 4月でした。今では、30を恐れていた自分が可愛いと思えるほどの年に。 ともあれ、もうすぐ私の新しい1年が始まります。 宮本常一が与えられた言葉をおすそ分けしていただき、 自分がよいと思ったことをやってみる1年にしてみようと思います。 いい言葉をありがとうこざいます。
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マナブ
at 2008-04-01 15:24
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our-songs at 2008-04-02 03:49
ずいぶん前に、この文章を何かで読んだ記憶があります。
すごく心に響いたし、親の有り難さをしみじみ感じたように思います。 親の愛情がこめられた、とても胸を打つ文章ですよね。 以前、私も結婚式の前日に父親から一通の手紙をもらいました。 封を開けると、同じように箇条書きの文章が綴られていました。 でもさすがに、「戻って来い、いつでも待っている」という意味の言葉はなかったですね。(笑) 今日、こちらでこの文章を読んで、久しぶりに父の手紙を開いてみようと思いました。
寺田さん
お久しぶりです。 桜と共に、新しい生活が始まっていく4月の日本を離れて、もう9年。 それでも、自分の中に残っているものです、ちょっぴり「感傷感」が 心に浮かぶ時期ですね。 親の思う気持ち、自分の年齢と共に、もっともっと響くようになってきました。手元において、「安全」「安心」しておきたいものでしょうが、 ああ親ってすごい。この「十カ条」もそうですが、親からこんな言葉をもらったら、もう自分を信じて進んでいくしかないですよね。そして、自分が次の世代に10カ条で伝えたい事をまとめるとすると、どうなるんだろう?って、考えました。
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amamori120 at 2008-04-02 21:27
このお父さん 金持ちではなかったようですが、いったいどんな人だったのか、気になりまにねぇ
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ふうさん
at 2008-04-03 21:46
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寺田御ネエさま
ご無沙汰しております。お元気ですか? すっかり春ですね。 僕はこの季節は幾つになっても学生時代の新学期気分です。 クラス替えの期待と緊張感が、今でも自宅前の桜並木が思い出させます。 そう毎年この季節は期待と希望で興奮状態なんです! 今年の春は、満開した桜を背に、イタリアに行って来ました。そして昨日帰国、桜並木は雪のように舞っておりました。 興奮状態です! 善十郎さんの言葉、サイコーです。 また旅に出たい! また今年もロケご一緒致出来たら幸いです!
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rockey-tommy
at 2008-04-08 15:03
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はじめまして。
ときどきこちらのブログにおじゃまさせてもらってます。 宮本常一さんのお父さんのことば、いいですね。 気づきに繋がることばに、時々むしょうに飢えることがあって 今、ちょうどそんな時だったらしく、心にジワ~としみました。 どの本に書いてあったのか、もしご存知なら教えていただけませんか? 読んでみたいです!
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naoko_terada at 2008-04-08 17:24
mikanskyサマ
元気になりましたか? 親が子を思う気持ちはいつの時代も不変ですね。 また、こういう背骨の通った生き方をしていた親がいる時代だったのですね。 新しい一年、自分ができる精一杯の努力をしましょう。 きっと何かが生まれるはずです。
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naoko_terada at 2008-04-08 17:26
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naoko_terada at 2008-04-08 17:28
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naoko_terada at 2008-04-08 17:30
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naoko_terada at 2008-04-08 17:32
foojilyサマ
ご無沙汰しております。 メルボルンはもう、肌寒くなってきましたでしょうか。 海外にいると、さらに親や家族のことを思うようになります。 近くにいるとあまりにも身近なので気がつかないのでしょう。 彼らに報いるのは、自分らしく一生懸命生きることだと思います。
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naoko_terada at 2008-04-08 17:40
amamori120サマ
善十郎さんは小学校に行くこともなく、成人してからは海外移民の経験などをした末に、郷里、周防大島で養蚕の仕事に従事。また、常一は百姓だった祖父にも育てられ、この二人に大きく影響されたようです。
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naoko_terada at 2008-04-08 17:42
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naoko_terada at 2008-04-08 17:43
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naoko_terada at 2008-04-08 17:48
rockey-tommyサマ
コメントありがとうございます。 また、いつもお寄りになっていただき感謝です。 善十郎氏の十か条は、宮本常一の「民俗学の旅」に出ています。 これは現在、講談社学術文庫に入っています。 また、別冊太陽の「宮本常一」にも掲載されていますが、この別冊も必読です。宮本が残したものがいかに今の時代、貴重かがわかります。 宮本が撮った多くの写真も感動しますよ。 ぜひ、見てください!
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carambola at 2008-04-09 07:05
いいですね.
まだまだゆとりがあった頃の, でもゆとりのない現代で敢えて導入したい そんな心得です. 鯔は最近,通勤電車の中で本を読むのって もったいないことなんじゃないかなぁ…と思うようになりました. 毎日通っているのに,そういえば景色が思い浮かばないなぁ,と. といいつつ,ついページに目を落としてしまうんだけど… 通勤時間2時間弱.これってしっかりプチ旅行なのにねぇ(笑)
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naoko_terada at 2008-04-09 22:31
鯔サマ
ああ、それわかります。 日々、見過ごしているであろうことをもっときちんと見ておかないといけないんじゃないか。 そう思うことがあります。 おっしゃるとおり。 ルーティンも視点を変えれば新鮮に思うことができるはずです。
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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